The Challenge of Digital Archiving of Japanese Art Collections in Europe Using a New Method of ARC
現在、アート・リサーチセンター(ARC)では、欧米の博物館や個人コレクションにある浮世絵や絵本などを対象に、高精度なデジタル画像による「デジタルアーカイブ」を進めている。浮世絵については、V&A博物館や大英博物館などを対象に、英国で約5万枚を越える撮影を終えた。引続き、ドイツ、イタリア、フランス、チェコなどの所蔵機関において同様な総合デジタルアーカイブに展開している。早稲田大学演劇博物館や都立中央図書館、立命館大学ARCなどの所蔵品や、図録に掲載された作品をも含めて、これらのデータは、現在22万枚を越える浮世絵データベースに発展しており、浮世絵研究に必須のDBとして評価されている。
この所蔵品アーカイブの特徴は、
- 対象の性格をよく知っている研究者自身が撮影技術を身につけ、最も相応しい撮影方法を使う。
- 研究者の興味で作品をピックアップするのでなく、その分野の所蔵品全部を残らずデジタル撮影する。
- 画像データと同時に、カタログデータも併せて、すべて所蔵機関に寄贈する。というところにある。
各所蔵機関では、その規模によらず、オンラインでの所蔵品カタログを稼動させることが求められる。しかし、課題はデジタル化にかかわる資金と、人手不足にある。本プロジェクトでは、「海外に所蔵される日本文化財、美術品の総合カタロギングと情報の共有化」が目的であり、日本国内においても、非常に意義のあるプロジェクトとして評価が定着した。かつARCでは、グローバルCOE、ITPプログラムなど、大規模な若手研究者教育型資金を獲得し、日本から専門の研究者グループを派遣し、1ヵ月程度の期間で所蔵資料の全デジタル撮影を完了するということが可能となっている。
これは、各所蔵機関にとっては、間接的に日本政府からの補助金を獲得するのと同じ結果となる。併せて、派遣される若手研究者らは、海外でのインターンシップ型調査を行い、学芸員あるいは組織との交流、現地の大学で日本学の研究者との交流を行うことで、国際的な日本研究の感覚を身につけることができ、双方にとって、非常に有意義な結果をもたらす。
この方法は、ARCリサーチモデルとして確立したもので、浮世絵や絵本だけでなく、陶磁器・漆器などの工芸品、歴史文書などへもその対象を広げ、積極的に展開する段階にきた。コピーライトの問題、公開と非公開の考え方も含めて紹介したい。